おうちミュージアムWEB(2)

製鉄業を大きく進展させた画期的な発明「ベッセマー転炉」を紹介します。

 千葉県立現代産業科学館では、現代日本及び千葉県の基幹産業である電力・石油・鉄鋼の産業について、それぞれの技術的発展や新しい技術を紹介しています。
 「おうちミュージアムWEB」で今回紹介するのは、イギリス人ベッセマー(1813~1898)が発明した鉄鋼業の発展の過程で画期的な発明とされる「ベッセマー転炉」です。

 令和3年度の「千葉県立美術館・博物館共通パスポート」に、「ベッセマー転炉」の写真が使われることになりました。上部に口を開いたこの卵型のものが「ベッセマー転炉」ですが、何をするものか知っている人は少ないのではないか思いますので、この機会に改めて紹介し、それにまつわるエピソードを取り上げることにしました。
(年間パスポートは、千葉県立美術館・博物館を利用する方には、非常にお得な年間入場券になりますので、是非ご利用ください。)

【ベッセマー転炉】ベッセマー転炉1/2模型

 製鉄は、鉄鉱石を高炉で溶かして銑鉄を取り出し、その銑鉄から不純物を取り除いて鋼鉄がつくられます。その不純物(炭素など)を取り除く方法として、1856年に銑鉄に空気を吹き込む「ベッセマー転炉」が発明されました。この転炉は、大量の銑鉄を簡単に鋼鉄に変えることができる画期的な発明で、鋼鉄の値段も安くなりました。

空気穴

 卵型の転炉本体が前後に回転できるようになっていて、転炉の上部にある開口部は斜めに開いています。銑鉄を中に入れる時は転炉を回転させて寝かせた状態にし、鋼鉄への転換をしている最中は立てて、底部の羽口と呼ばれるいくつもの穴から転炉内に空気を供給します。そして、できた鋼鉄を取り出す時は再び転炉を回転させ、寝かせた状態にします。

 ここで、岩波書店が発行した『広辞苑』第六版(現在の第七版にも)掲載されている「ベッセマー転炉」の挿絵のエピソードについて紹介します。

 岩波書店編集局『広辞苑』編集部の上野真志氏は、2008(平成20)年1月11日に『広辞苑』第六版が発売された際に行われた株式会社ジャストシステムのインタビューにおいて、多くの誕生秘話を語っています。その中で「ベッセマー転炉」にも触れています。やや長くなりますが、該当箇所を原文のまま引用します。

 https://www.justmyshop.com/camp/koujien/index_2.html

 「苦労したのは「ベッセマー転炉」。昔の製鉄所にあった溶鉱炉ですね。古い本に載っていた写真から描き起こしてもらおうとしたのですが、画家さんに「解像度が低くて無理だ」と断られまして。一度は、外観のはあきらめて模式図にしようかとも思ったのですが、とある産業関連の博物館に1/2の模型があるという情報が入ったんです。早速出かけて、写真を撮らせてもらいました。」                                  インタビュー記事にはさらに『広辞苑』に掲載したカットも載せて、「取材した模型は炉を横倒しにした稼働状態だったが、図版では炉を立てた状態で描かれている。」と、取材時の状態を書き加えている。
        
この「とある産業関連の博物館に1/2の模型がある」とは、まさしく当館の現代産業の歴史フロアで展示している「ベッセマー転炉」のことなのです。また、「模型は炉を横倒しにした稼働状態だった」に関しては、展示の趣を変えるため、開館当初は縦位置で展示していた転炉を回転させて横位置にしていた時期があり、岩波書店が調査に訪れたのは、ちょうどその時期だったと思われます。それまでの『広辞苑』にも「ベッセマー転炉」の挿絵は掲載されていましたが、いわゆる「クロスハッチング法」による描画だったので、気になっていたのでしょう。

 この挿絵を描いたグラフィックデザイナーの方は、光源が逆光では落ち着かないので、左上から右下の光源をイメージして、陰影をドットで表現することで⽴体感や温かみ、そして光沢感まで描出することを心がけたそうです。当館の「ベッセマー転炉」は精密な描画にはうってつけのアイテムだったのでしょう。

 なお10年ぶりに改訂された『広辞苑』第六版の出版記念として、岩波書店は衣料品メーカーのユニクロ(UNIQLOCO.LTD.)と提携して、「ユニクロ『広辞苑』Tシャツ」と銘打って、所収された総数約2,800点の挿絵の中から10カットの挿絵を選び、平成20(2008)年からユニクロの通販サイトなどで限定販売。その10カットの中には、「ベッセマー転炉」の図柄も含まれていました。10カットの中で「ベッセマー転炉」は知名度の低いものでしたが、挿絵の出来栄えの良さ、機械としての「ベッセマー転炉」の美しさなどが採用の決め手になったのでしょう。

 『広辞苑』第六版のこうした販売戦略が高く評価され、出版業界では唯一、第1回日本マーケティング大賞奨励賞(社団法人日本マーケティング協会)を受賞しました。ちなみに第六版には、「ラブラブ」「めっちゃ」「いけ面」「癒し系」「メタボリック症候群」「うざい」「どんぴしゃり」「カミングアウト」「ネットサーフィン」などが新語入りした版になります。

 

【ベッセマー転炉】
資  料  名:ベッセマー転炉模型(2階「現代産業の歴史」展示室 鉄鋼産業コーナー展示)
製     作:平成5年
サ  イ  ズ:楕円転炉本体 高さ230cm、長径140cm、短径120cm、実物の1/2模型
資料情報: 当館の「ベッセマー転炉」は、イギリス人ヘンリー・べッセマー(Sir Henrry Bessemer 1813~1898)が発明した転炉で、ドイツ博物館の協力により、ミュンヘンにある実物をもとに当館の展示のために忠実に2分の1のスケールで復元したものです。べッセマーは転炉を軸に取り付け、前後に自由に回転できるように改造しました。この方法によって、転炉を傾けて鉄の出し入れができるようになり、底の穴から鉄が流れ出る心配がなくなりました。この転炉の形は、100年以上たった今でもほとんど変わっていません。