重点研究「下総台地東部の自然」

重点研究「下総台地東部の自然」

 

 本重点研究は「下総台地東部において植物・菌類のフロラ(※1)調査や生態学的調査、昆虫を含む動物のファウナ(※2)調査や生態学的調査、地学分野の地形・地層・化石調査などを行うことで、この地域の自然誌分野の基礎的な知見と資料(登録標本含む)を増大させるとともに、生物相の多様性と特異性や、地質の特性を明らかにする」ことを目的として令和2~4年度の3年間行うもので、当館研究員21名が研究グループに参加しています。

※1:【フロラ flora】植物相。ある特定の地域に分布し生育する植物の全種類。ある特定の地域に分布し生育する菌類の全種類を菌類フロラと呼ぶことがある。
※2:【ファウナ fauna】動物相。ある特定の地域に分布し生育する動物の全種類。

 こちらのページでは、重点研究に参加する研究員の調査の取り組みや、これまでの成果についてご紹介します。

目次

  1. 重点研究「下総台地東部の自然」を開始しました(令和2年12月15日掲載)
  2. 旭市の植物相調査(令和3年1月15日掲載)
  3. 下総台地東部には、いまどんな昆虫がいるのか(令和3年2月23日掲載)
  4. 下総層群の貝化石調査(令和3年3月12日掲載)
  5. 下総台地の蘚苔類(令和3年4月30日掲載)
  6. 重点研究「下総台地東部の自然」令和2年度実績(令和3年6月12日掲載)
  7. シダ植物のフロラ調査(令和3年7月13日掲載)
  8. 下総台地の地層(下総層群)調査(令和3年7月24日掲載)
  9. 郷土の植物を記録する(旭市を例として)(令和3年8月13日掲載)
  10. 良好な谷津環境の指標となる昆虫寄生菌(令和3年9月16日掲載)

 

重点研究「下総台地東部の自然」を開始しました

 千葉県立中央博物館には44名(令和2年度現在・3分館含む)の自然誌系(地学、動物、植物・菌類)専門職員がいます。これら職員は各自の専門分野について、地域研究課題(千葉県に関する研究)と普遍研究課題(千葉県に限定せず、日本・世界規模で展開する研究)の研究テーマを設定して、調査研究を行っています。調査研究の結果、収集した資料は標本化して館の資料として登録し、また得られた知見を論文として公表するとともに、展示や行事等を通じて県民の皆さんに成果を還元しています。

 また、地域研究課題と普遍研究課題の他に、今日的な課題を短期集中的に扱う重点研究も進めています。平成24~28年度に実施された重点研究「房総丘陵の自然−過去、現在、未来−」では、房総半島南部の丘陵地域を地学、動物、植物・菌類各分野の職員が調査し、甲虫の新種の発見を含む多くの成果をあげ、それらは400ページを超える報告書「自然誌研究報告特別号10『房総丘陵の自然誌』」(平成29年3月発行)や、平成30年度秋の展示「房総丘陵はすごい−調べてびっくり、新発見の数々−」として公表しました。

 この房総丘陵の重点研究に続くものとして、房総丘陵の北部に位置する下総台地の自然に関する重点研究を、令和2~4年度に行うことにしました。下総台地全域を3年で調査することは困難であるため、この3年間では概ね佐倉市以東の下総台地東部を扱うこととしました(図1)。下総台地西部についてはその次の3箇年で調査することを予定しています。

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図1 調査範囲地図 台地(薄茶色の部分)のうち、青い線より東側がおおよその調査範囲
(『千葉県の歴史 資料編 考古1』(千葉県、2000年)p.232を改変)
PDFはこちら(1395KB)(PDF文書)

 

 館職員21名で、地学分野の地形・地層・化石調査、昆虫を含む動物のファウナ調査や生態学的調査、植物・菌類のフロラ調査や生態学的調査などを行います(表1)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、調査に出られない状況が続いていましたが、ようやく秋から調査を開始することができました。この地域の自然誌分野の基礎的な知見と資料を増大させるとともに、生物相の多様性と特異性や、地質の特性などが明らかになることが期待されます。

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表1 重点研究「下総台地東部の自然」の調査内容と担当職員
PDFはこちら(96KB)(PDF文書)

 これから本重点研究に参加している館職員21名各人が行う調査内容の予定や成果について、概ね月1回のペースで紹介させていただきます。3年後にどのような成果が得られるのか、期待しながらお読みいただければ幸いです。

(研究代表者 自然誌・歴史研究部長 萩野康則)

 

旭市の植物相調査

 中央博物館では千葉県内の維管束植物(被子植物・裸子植物・シダ植物のこと)を市町村単位で調査してきました。昨年度までで木更津市の植物相調査が終了し、現在は調査結果の取りまとめを行っています。これと平行して、今年度は重点研究の一環として下総台地東部、なかでも特に調査記録の少ない旭市の植物相を調べることになりました。

 

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図1 GPSを活用して地形図上に調査ルートを記録する。

 維管束植物の調査では、調査地区全域を1kmの枠に区切り、全ての枠を訪れて、そこに生育する植物を調査します(図1)。ただし、耕地整理の終わった田圃が何キロにもわたって続いているような場合は2km四方の枠で調査することも考えています。各枠では、田圃、畑を通って社寺林の残る神社に至るような、できるだけ多様な環境を通るコースを設定し、そこを4-5人で歩いて目についた全ての植物を記録し、花や実のついている植物、千葉県では珍しい植物については証拠となる標本を採集します(図2、3)。一つの枠を調査すると、100〜300種の植物が見つかり、一つの市町村ではおおよそ1500種類ほどの植物が記録されます。

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図2 目視記録のようす。
目についた全ての種類を記録する。
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図3 標本作成。
現地で仮押しをする。博物館に戻ってから形を整える。

 

 植物採集では、花や実がついていれば普通に見られるいわゆる「雑草」も採集します。今は普通種でも、いつ急減してしまうかわからないからです。例えば実が「ひっつき虫」と呼ばれて、かつてはどこででも見られた「オナモミ」は、千葉県からすっかり姿を消してしまい、最新版の千葉県レッドリストではA最重要保護生物に選定されています。こうした場合、かつて広く見られた「オナモミ」が本当にオナモミなのか、それともオオオナモミなどの見間違いなかのかは標本を見なければ確定できません。

 最近は、シカやイノシシの増加、気候の変化などのためか、数十年という、自然誌的には比較的短い期間に生えている植物が大きく変化することが増えているようです。千葉県では、何がどのように変わっているのかを知るためには、記録を積み重ねるしかありません。現在の記録は現在しか取れないのです。多くの先輩が採集した標本から、私たちは過去の千葉県の植物について、知ることができます。私たちも子孫が自然の変化を確かめることができるように、標本や目視の記録を残しているのです。

(分館海の博物館 分館長 斎木健一)

 

下総台地東部には、いまどんな昆虫がいるのか

 標高およそ20から60 メートルのなだらかな起伏が続く下総台地には、「谷津」と呼ばれる地形が多くあり、水田や畑などの耕作地、雑木林などのいわゆる「里山」に生息する生物にとって重要な生息地となってきました。昆虫についても例外ではなく、実際に今回の重点研究課題の調査エリアに位置する佐倉市がまとめた自然環境調査報告書によると、「佐倉市の昆虫のファウナを一言で言えば『水田地帯と谷津田を囲む里山の昆虫たち』」とまで言われています。

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図1 下総台地の典型的な谷津の風景

 しかし、都市化や、管理者の高齢化や後継者不足のために里山が減少しつつあること、また、分布北上種の定着や外来種の侵入などの要因で、下総台地をはじめとした千葉県の昆虫のファウナは急速に変化しつつあります。
博物館の収蔵庫には今では得ることができない貴重な過去の標本が残されています。また、現在野外に生息している昆虫を採集し、標本や観察記録を集めています。これらを比べることで自然の変化を明らかにし、みなさまにお伝えしようと、当館の研究員は日々活動しています。

 今回の重点研究課題では、変容しつつある谷津をはじめとした里山に今どのような昆虫が生息しているのか、下総台地東部に焦点を当てて調査することにしました。新型コロナウイルスの影響などでなかなか思うような活動ができませんでしたが、ようやく9月に成田市内で調査をすることができました。現在は冬季で昆虫の活動が鈍い時期ということもあり、採集した昆虫の標本を作り、種名を調べる作業をしています。

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図2 調査中に発見されたベニシジミ
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図3 調査中に発見された外来種ヘクソカズラグンバイ

 下総台地東部にあたる地域では、先述の佐倉市における自然環境調査(佐倉市, 2000)、成田市における動植物生息調査(成田市, 2004)、千葉県昆虫談話会が手がけた栄町の「房総のむら」での昆虫相調査(千葉県昆虫談話会, 2018)など、過去にまとまった規模の調査が行われました。このうち佐倉市では1,600種、成田市では1,117種、房総のむらでは3,039種がそれぞれ記録され、貴重種の生息確認や県内未記録種の発見といった成果がもたらされています。また、これらの調査の結果、ゲンゴロウ類、水生カメムシ類、ゴミムシ類といった近年県内外で減りつつある水生昆虫、湿地性昆虫のファウナが比較的良好に残されていることも分かっています。
 今回の重点研究ではさらなる県内未記録種や貴重種の発見が期待されるだけでなく、それら貴重な水生種、湿地性種をはじめとした昆虫のファウナが今どのような状態で、これからどのように変化していくと考えられるのかについて、現地で積極的に調査を行い、集まった資料をもととした研究成果を様々な形で世の中へ発信できたらと考えております。

【参考文献】
・佐倉市(2000) 佐倉市自然環境調査報告書,  佐倉市自然環境調査団 編: 610 pp.
・成田市(2004) 動植物生息調査(第2次陸域編)報告書,成田市: 381 pp.
・千葉県昆虫談話会 (2018) 千葉県立房総のむら昆虫相調査報告書. 房総の昆虫(61): 1–182.

(企画調整課 研究員 伴光哲)

 

下総層群の貝化石調査

 下総台地に広く分布する下総層群は、約45万年前~8万年前の主に浅海に堆積した砂や泥からできています。保存状態の良い化石がたくさん見つかり、特に貝化石について数多くの研究があります。下総層群から見つかった貝化石をもとに新種として記載され、その後、現在の海で生きた貝が見つかった例もあります。生物を分類するときは、記載のもとになった標本の特徴が重視されます。このため、下総層群の貝化石は、化石の研究者のみならず、現生の貝類の研究者にとっても重要なのです。
 下総層群の貝化石の9割以上は現生種です。また、貝類は海の深度や海底の堆積物の特徴によって棲んでいる種が異なります。そのため、下総層群では、貝化石を調べることによって、当時の環境が分かります。
 重点研究では、下総層群の地層がどのような環境でできたのか、貝化石の種類から明らかにすることを第一の目的としています。また、当館の収蔵庫には下総層群の貝化石がたくさんありますが、まだまだ収集できていない分類群もあります。そこで、下総層群の貝化石資料を増やすことを第二の目的としています。

 

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図1 貝化石が密集する地層(ねじり鎌の大きさは約25cm)

 本年度は、市原市~千葉市の下総層群を調査しました(図1)。現在、地層に含まれている貝化石を拾い出しているところです。これまでに、アラスジソデガイ・スナメガイ・ヒナノシャクシ・ケシフミガイなどの二枚貝が得られました。これらの種は、下総層群の化石をもとに、Yokoyama (1922)や鈴木・石塚(1943)によって新種として記載されたものです(図2)。今後は、貝化石の拾い出しと分類を進め、地層のできた当時の環境を明らかにする予定です。
 また、当館の収蔵庫にはない貝化石も得られたので、今後整理を進めて、資料として登録する予定です。下総層群の貝化石はデジタルミュージアム「下総台地と周辺の貝化石」で写真と解説を公開しています。将来的には、重点研究で収集した資料も追加できればと思っています。

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図2 重点研究で収集した下総層群の貝化石
(左からアラスジソデガイ・スナメガイ・ヒナノシャクシ・ケシフミガイ、目盛りは1mm)

 

 また、令和3年度には、「貝化石をひろってみよう」と題し、砂の中から貝化石を拾い出してお土産にできる、体験型の行事を計画していますが、その行事で用いる砂も収集できました(図3)。現在、その砂を下調べしているところですが、すでに120種以上の貝化石が見つかっています。実際に行事で貝化石を拾えば、種類はまだまだ増えそうです。興味のある方は行事にご参加いただき、貝化石を拾ってみませんか。

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図3 来年度開催予定の行事で使う貝化石をたくさん含む砂
(大きな貝化石が目立ちますが、小さな貝化石もたくさん含まれています)

【参考文献】
・Yokoyama (1922) Fossils from the upper Musashino of Kazusa and Shimosa. Journal of the College of Science, Imperial University of Tokyo, 44, 1-200.
・鈴木・石塚 (1943) ゲンロクソデガイの變異 附: 新亞種アラスヂソデガイの記載. 貝類學雑誌, 13, 38-64.

(教育普及課 研究員 千葉友樹)

 

下総台地の蘚苔類

 千葉県の蘚苔類(コケ植物)に関する調査研究は、19世紀後期に始まりました。当時から房総丘陵の清澄山とその周辺は自然が豊かな場所として全国的に知られていました。当館においても、平成24〜28年度に実施された重点研究「房総丘陵の自然―過去、現在、未来―」で調査を行い、渓谷の岩場や照葉樹林に生育する蘚苔類について、新種や千葉県初記録種など多くの新発見がありました(古木 2017)。
 一方、下総台地の蘚苔類については、昭和時代後期になるまでほとんど研究されていませんでしたが、高度経済成長期後半の1970年前後から大気汚染が社会問題化し、樹幹着生種の分布や生育量が大気汚染の指標として注目されるようになりました。蘚苔類は大気汚染に敏感であり、汚染の激しい都市の中心部では着生種がほとんどなく、「都市はコケ砂漠」と呼ばれていました。このような下総台地の蘚苔類に関する研究の歴史は古木 (2000)によってまとめられ、目録が作られています。そして、平成時代になり各自治体において自然環境現況調査が行われるようになり、千葉市や佐倉市、白井市、袖ヶ浦市などで蘚苔類がまとめられました。近年は、当館の市民研究員との協働によって東金市と野田市、市川市、浦安市、習志野市、船橋市の蘚苔類が報告されています。しかし、下総台地東部は、蘚苔類についてはほとんど調べられていませんでした。
 今回の調査によって世界最小級のコケとして知られているカゲロウゴケ(図1)や全国的な希少種であるオオミハタケゴケ(図2)などが見つかっています。これからどのような蘚苔類が見つかるか楽しみがつきません。

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図1. カゲロウゴケEphemerum spinulosum.
世界最小級の蘚苔類として知られており、
今回の調査でも見つかった
(2016年11月12日、佐倉市)
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図2.オオミハタケゴケRiccia beyrichiana.  
今回の調査によって見つかった
全国的に希な蘚苔類
(2020年7月9日、栄町)

 【引用文献】
・古木達郎 (2000). 下総台地の蘚苔類相-各環境における生育状況. 千葉県臨海開発地域等動植物影響調査会(編), 開発地 域等における自然環境モニタリング手法に係わる基礎調査 III: 9‒14. 千葉県環境 部環境調整課. 千葉市. 
・古木達郎 (2017). 千葉県清澄山のコケ植物相. 千葉中央博自然誌研究報告特別号 (10): 349-368, xix-xx (pls.1-2).

(教育普及課 主任上席研究員 古木達郎)

 

重点研究「下総台地東部の自然」令和2年度実績

「昆虫のファウナ調査」尾崎煙雄・伴光哲・斉藤明子

 成田市内3カ所(船形、芦田、駒井野)で調査を行い、約180点の昆虫を収集し、標本化、同定、登録作業を進めている。また、アリ類を寄主とする昆虫寄生菌イトヒキミジンアリタケを5点収集した。

 

「下総台地東部の多足類・クモ類相調査」 萩野康則

 八街市、東金市、山武市、富里町、芝山町の計6地点の森林で、土壌資料を採取し、その中に生息する土壌動物を抽出装置で採集した。採集した土壌動物から多足類とクモ類を選別し、標本化と同定を行っている。

 

「新生代以降の現生を中心とした貝類相の追加調査」 黒住耐二

 成田市等で調査を行い、100点程度の資料を収集した。この中には、これまで千葉県では1ケ所でしか確認されていないミズコハクガイも含まれている。その他の実績は以下の通り。
論文・報告書
・黒住耐二. 2021. 取掛西貝塚(5)で得られた貝類遺体. In 船橋市教育委員会(編),取掛西貝塚(5)【2】, pp. 247-273. 船橋市教育委員会.[下総台地の印旛沼産のカラスガイを用いて出土貝類の議論を行った]
・黒住耐二. 2021. 市原条里遺跡で検出された貝層の貝類遺体とその堆積環境について. 市原条里遺跡, 千葉県教育委員会埋蔵文化財調査報告, (38): 208-222.[台地上の遺跡との関連を議論した]
共同研究
・佐倉市の縄文遺跡出土土器の貝殻施文(印旛郡市埋蔵文化財センター)
・横芝光町の縄文遺跡の微小貝類分析(千葉県埋蔵文化財センター)
展示
・千葉県立中央博物館令和2年度春の展示「九十九里浜の自然誌」[横芝光町の高谷川低地の沖積産貝化石および東金市・大網白里町の養安寺遺跡出土貝類を展示した]
講演
・栃木県立博物館第127回企画展「貝ってすてき!~美しい貝、美味しい貝、とちぎの貝、大集合~」記念講演会「住み続ける貝、入ってくる貝、そして未来は?」講師/2020年11月29日・栃木県立博物館[養安寺遺跡のバイ篭漁にも触れる]
社会貢献
・貝化石資料の分類整理作業、活用方針の検討(印西市教育委員会)[下総台地東部の貝化石を含む]
標本登録
・24点(CBM-ZM 186608~)[千葉県新記録種のムラヤマヌマガイを含む]

 

「下総台地東部における哺乳類絶滅危惧種の生息状況」 下稲葉さやか

 千葉県立房総のむらで、コウモリ類の生息状況を聞き取りとバットディテクターの使用により調査した。コウモリの生息が確認されたが、種の特定はできなかった。しかし発声する超音波の周波数から絶滅危惧種の可能性がある。

 

「地域植物相の調査」 水野大樹・天野誠・御巫由紀・西内李佳・平田和弘・斎木健一

 今年度は計10回の調査を行い、1平方キロのメッシュ計35メッシュを調査した。目視で確認されたのは計730分類群であった。244点の標本を作製し、そのうち160分類群201点は仮登録済みである。

 

「下総台地東部の蘚苔類相調査」 古木達郎

 千葉県立房総のむらで2回調査を行い、約数十点の資料を収集した。オオミハタケゴケとミドリハタケゴケなど県内稀産種を確認した。

 

「下総台地東部の地衣類相調査」 原田浩・坂田歩美

 成田山公園で2回調査を行い、標本150点を収集した。標本作製を完了し、同定作業中である。

 

「下総台地東部の大型菌類相調査」 大野将史

 千葉県立房総のむらで大型菌類相調査を7月~11月にかけて10度実施し、標本128点を収集した。標本作製を完了し、同定作業中である。

 

「下総層群の貝化石調査」 千葉友樹

 貝化石密集層の各層準から22の堆積物試料を採取し11試料から貝化石を拾い出した。来年度の行事で使用する、貝化石を含む堆積物試料を収集した。本格的な同定は次年度以降となるが、これまでにアラスジソデガイ・スナメガイ・ヒナノシャクシ・ケシフミガイなどの下総層群から記載された貝類が得られた。このうち、15点を標本登録し、4点をデジタルミュージアム「下総台地と周辺の貝化石」に掲載した。

 

「牛久−東金崖線の地形」 八木令子・吉村光敏(当館共同研究員)

 牛久−東金崖線や崖線上に見られる地形(風隙、懸谷、河川争奪、滝など)の分布状況を把握した。また、すでに撮影済みの崖線の航空斜め写真等画像資料を整理した。

 

「下総台地の地層(下総層群)調査」 岡崎浩子

 銚子市西部~旭市と印西市~香取郡神崎町で野外調査を行い、写真撮影及び露頭柱状図を作成した。成果の一部はJpGU-AGU Joint Meeting 2020(日本地球惑星科学連合-米国地球物理学連合共同開催)で発表した。

 

「下総台地東部の表層花粉調査」 奥田昌明

 下総台地の自然植生と空中花粉の関係を明らかにする基礎資料として、成田市、旭市銚子市から計31点の表層花粉試料を採取した。採取物は毛足の長いコケ群落であり、空中花粉を効果的に捕集していることが期待される。実際の分析作業は来年度に行うとともに、標本化して収蔵庫に収める予定である。
 

 

シダ植物のフロラ調査

 令和3年1月15日にウェブサイトにアップした「旭市の植物相調査」では、維管束植物の調査方法や、どのくらいの種が見つかるか、調査データや採集した標本がどのように役立つかについて、御紹介しました。
 植物相調査の際には、植物の分類群に関係なく、生育するすべて種についてリストアップします。その中でも、シダ植物は別種でも見た目が似ているので、見落としが無いよう、分けて記録を取ることがあります。植物相の調査に出かけると下の写真のように、たくさんの種類のシダ植物が混生して生えている場面に出くわします。この写真は旭市で撮影したものではありませんが、1か所の崖に5種以上のシダ植物が生育しています。慣れてくると一瞬で見分けることができるのですが、野外で即座に種名を記録できるようになるまでは、たくさんの調査経験が必要です。多い時では50種近いシダ植物が、1つの調査ルートで見られることもあります。

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写真1 湿潤な崖には複数種のシダ植物が混生して生える

 写真に写っているシダ植物のうち、種間でかなり形が異なり写真だけで確実に種の同定ができるものはオオイタチシダ、オリヅルシダ、ジュウモンジシダ、マツザカシダ、ホシダです。他にも数種写っていますが、種間で見た目が似ているものは毛の有無や、胞子嚢群の付き方をたよりに種を判別する必要があります。
 旭市の調査はこれまでに、1平方キロメートルのメッシュを54か所実施し、全部で63分類群(種だけでなく雑種等も含む)のシダ植物の生育を確認しています。旭市は昨年度まで調査していた木更津市とほぼ同等の面積を有していますが、市域の大部分は水田等に利用されている低地です。そのため、県南の丘陵地帯と比較すると、多種多様なシダ植物がみられる可能性は低いかもしれません。しかし、旭市の北部には、下の写真の様にシダ植物の生育に適した良好な谷津が残されています。千葉県で見つかった希少なシダ植物が全て丘陵地帯で見つかっているわけではありません。サンブイノデやチバナライシダなどは、房総丘陵以外の地域で初めて見つかったシダの雑種です。旭市の植物調査の成果が、新たな発見につながることを期待して、今後の調査を進めていきたいと思います。

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写真2 旭市下瀬古の谷津

(企画調整課 研究員 水野大樹)

 

下総台地の地層(下総層群)調査

 下総台地は、千葉県北部に広がる台地です。この台地の高さは、北西から南東に行くにしたがって高くなり、野田市付近で20 m前後ですが、長柄町では100mをこえるようになります。台地をつくっている地層は下総層群と呼ばれる約45〜8万年前の砂や泥の層です。台地を削った砂取場などでみられる黄褐色の柔らかい砂の地層が下総層群です。

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図1    銚子市小長町の砂取場でみられる下総層群の砂層

 下総層群からはたくさんの貝化石が出てきます(本サイト内の「下総層群の貝化石調査」(令和3年3月12日掲載)参照)。そのほとんどが浅い海に棲む貝の化石です。印西市の木下万葉(きおろしまんよう)公園では貝化石が密集して産出しています。これは約12万年前の地層で、国の天然記念物「木下(きおろし)貝層」に指定されています。ところで海にたまった地層がどのようにして、高さ数十mの台地になったのでしょうか?
 地球は約80万年前以降、約10万年周期で寒い・暖かいを繰り返していて、氷期・間氷期と呼ばれます。氷期には氷河が発達して、海面は下がりますが、間氷期には氷河が溶けて海面は上がります。先ほどの木下貝層がたまった約12万年前は間氷期で海面は現在よりも6-9 m高かったことが知られています(Kopp et al., 2009)。しかし,このような海面の変化だけでは、現在の台地の形成は説明できません。地面の隆起が加わって現在の姿となったと考えられます。
 本重点研究では下総台地東部の隆起運動がどのようなものであったかを地層から読み取るために、飯岡台地の地層調査を行っています。
 旭市・銚子市に広がる飯岡台地は下総台地の東端の台地であり、台地の南面の崖が屏風ケ浦になります。高さ約60〜20m、長さが約10kmの断崖絶壁で、飯岡台地をつくる地層がよくわかります。下部の灰色の部分は犬吠層群と呼ばれる約300〜45万年前の古い地層で、深い海にたまった泥の地層です。上部の黄褐色の部分が下総層群の地層で、砂の層です。この砂層は香取(かとり)層と呼ばれ、これまで木下層(前述の「木下貝層」)の連続した同じ地層と考えられていました。

Fig2
図2    屏風ケ浦の地層。ドローン(丸囲み)を使って全景調査中。

 香取層からは貝化石がわずかにしか出てきませんが、砂層中には堆積構造(たいせきこうぞう)と呼ばれるいろいろな模様がたくさん見られ、この地層が当時どのような環境でたまったかを知る手がかりとなります。例えば,図3に見られる波型模様はウェーブリップルと呼ばれ,水深5〜20m程度の海底で台風時の波浪によって形成されたと考えられます。また,図4の平行な縞模様は平行葉理(へいこうようり)と呼ばれ、砂浜の波打ち際で波がいったりきたりすることによって形成されたと考えられます。白く細長い、もしくは丸い白い点のようなものはゴカイが這まわった跡(生痕化石(せいこんかせき)です。このような堆積構造から香取層が浅い海にたまった地層であることがわかります。

Fig3
図3    ウェーブリップル
中央の波型模様がウェーブリップル。銚子市小長町。香取層。スケールは30cm。
Fig4
図4    平行葉理と生痕化石
平行な縞模様が平行葉理。白斑状のもの(例えば丸囲み)は生痕化石で、ここではたくさん見られます。銚子市三崎町。香取層。

 また、香取層の年代が、最近、新しい年代測定法である光ルミネッセンス法で測定された結果、約10〜8万年前の地層であることが判明しました。したがって香取層はこれまで考えられていた木下層よりもより新しい時代の海の地層になります。下総台地東部では、これまでこの時代の海の地層の報告はなく、香取層は下総台地の隆起運動を考える上で大変重要な地層であることが明らかになりました。この結果は学会大会でも報告されました(田村ほか、2020;岡崎ほか、2020)。
 今後は、この結果を論文にまとめ、また、この時代の地層の詳細な分布調査をさらに進めていきたいと思います。

文献
Kopp, R.E., Simons, F.J., Mitrovica, J.X., Maloof, A.C. and Oppenheimer, M., 2009. Probabilistic assessment of sea level during the last interglacial stage, Nature, 462, 863–867.

岡崎浩子・中里裕臣・奈良正和・田村 亨・伊藤一充・奈良正和.2020.Forced regression deposits during MIS 5c and 5a observed in the Iioka marine terrace (the Pleistocene Katori Formation, central Japan)日本地球惑星科学連合2020年大会要:HCG23-P05.

田村 亨・岡崎浩子・中里裕臣・納谷友規・中島 礼.2020. Feldspar pIRIR dating for defining glacial-interglacial depositional sequences in the Kanto Plain, eastern Japan.日本地球惑星科学連合2020年大会要旨: HQR04-03.

(地学研究科    主任上席研究員    岡崎浩子)

 

郷土の植物を記録する(旭市を例として)

 県立博物館の役割の大きなものの1つに、県下の市町村の生物相を調べ、記録をするということがあります。はるかなる目標ですが、県下、全市町村の証拠標本付き植物目録を作ることを視野に入れています。もちろん、千葉県の市町村の中には、市町村立の博物館がある所もありますから、植物の調査が自前では難しい所を優先して選んでいます。今回の重点研究の「下総台地東部の自然」の維管束植物調査班では、対象区域の中から、記録数が少ない旭市を調査の対象としました。
 平成の市町村合併で、干潟町、飯岡町、海上町が加わって、新しい旭市ができました。前年度の目視データでそれまで確認されていなかった種も相当でてきました。現在、標本整理中ですので、確かな数はわかりませんが、かなりの植物が旭市の植物相に加わりました。
 調査は、その時の参加人数にもよりますが、役割を決めて行います。目視で植物を確認し名前を呼び上げる係、それをノートに書き留める係、標本を採集する係などです。手の空いている人は、今後の展示に備えて、写真も撮ります。写真は標本では直接わからない景観の変化を知るためにも必要な資料です。

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写真1 調査風景

 目視と標本の採集を平行して行うのは、両者に利点と欠点があり、互いに補い合うためです。1km平方の区画を1日に4から5箇所調べるのですが、すべてを標本にするには、とても時間が足りません。また、花や実のない標本で収蔵庫があふれてしまいます。一方で面として植物の分布を捉えるのには目視データは欠かせません。実物標本は、後での検証が可能な科学的な証拠です。少なくとも各市町村1点は、証拠標本がほしいところです。そのために普通種であっても、必ず標本にするに値するならば、採集しています。また、これはもう次に見ることがないなという思う植物は、迷わず採集します。このように組織的・計画的に標本を集めているのです。

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写真2 標本整理(標本の台紙貼り付け)

 まだ、調査の途中ですが、興味深い現象を見つけました。熱帯の海岸に広範囲に分布するグンバイヒルガオが刑部岬で採集されました。今までは、いすみ市の日有浦が標本で確認できる北限だったので、一気に九十九里浜を越えたことになります。このように調査を重ねることで、植物の分布の拡大や縮小を見ることもできるのです。

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写真3 まだ、若いグンバイヒルガオ

           植物学研究科 上席研究員  天野 誠

 

良好な谷津環境の指標となる昆虫寄生菌

 この重点研究のテーマの一つである昆虫のファウナ調査は、すでに伴研究員が記述しているとおり「変容しつつある谷津をはじめとした里山に今どのような昆虫が生息しているのか」を明らかにすることを目的としています(伴, 2021)。極めて種数の多い昆虫類は食べたり食べられたりという関係を通じて生態系の中で重要な役割を果たしています。昆虫と他の生物との関係の中で、私は少し変わった存在に注目しています。それは冬虫夏草(とうちゅうかそう)と呼ばれる昆虫寄生菌類で、生きた昆虫に感染してその養分を利用して成長し繁殖するキノコの仲間です。昆虫から見れば恐ろしい寄生生物ですが、冬虫夏草は地味で弱々しい存在です。どこにでもいるというものではなく、生育に適した環境が残っていなければ見つけることは困難です。
 そんな冬虫夏草の一例として、成田市の谷津で発見したイトヒキミジンアリタケを紹介します。イトヒキミジンアリタケは主にミカドオオアリというアリに寄生する冬虫夏草です。アリの身体から細い糸のような子実体が生え、その途中に黒い球状の塊がついています(写真1)。結実部と呼ばれるこの塊は胞子を生産する繁殖器官です。また、写真1に写っている白いカビのようなものはカビなのかイトヒキミジンアリタケの一部なのかは今のところ不明です。そもそもミカドオオアリ(写真2)は夜行性なので、日中の調査では発見しにくいアリです。こうして菌に寄生されたものによってミカドオオアリの生息も確認できたわけです。

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写真1 成田市の谷津で見つかったイトヒキミジンアリタケ

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写真2 夜行性のミカドオオアリ(生態園にて撮影)

 イトヒキミジンアリタケは、写真3のような適度な湿り気が保たれた谷津の斜面林の下部で、大きな樹木の根元付近を丹念に探すと見つかることがありますが、そのような環境が残されている谷津は今では珍しくなってしまいました。成田市内で行った調査では、2か所の谷津でイトヒキミジンアリタケを発見することができました。昆虫相調査の一環として本種をはじめとする冬虫夏草を探索することにより、下総台地東部に残された良好な谷津環境を記録して行きたいと思います。

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写真3 イトヒキミジンアリタケが生息する環境

【参考文献】
・伴光哲(2021) 下総台地東部には、いまどんな昆虫がいるのか, 重点研究「下総台地東部の自然」(令和3年2月23日掲載).

生態学・環境研究科長 尾崎煙雄